日本史

「反」日本史 須藤公博 講談社

副題「名門大学入試問題で知る」という副題がついている通り、駿台予備校の講師の方が、大学の入試問題から、最新の通説をどのように理解するかをまとめた本です。
一つ感じるのは、大学入試の問題がつまらない。奇天烈な説を取り上げて、それを入試問題にはできないでしょうけど、所詮は現在の高等学校の指導要綱がベースにあるわけですから、自ずと限界があるのです。
例えば、最初にとりあげられているのが、筑波大学の論述問題、「推古朝の政治と文化の特質について論述せよ」で、使用する語句が、厩戸皇子、三経義疏、蘇我馬子、渡来人。つまらん問題ですよね。私のように、聖徳太子がいなかった説ではなく、推古天皇いなかった説のものにとっては、それって日本書紀の嘘をそのまま書けと言う問題としか思えないのです。
問題とは大きく離れてしまいますが、解説というか、問題の窮屈さに対する説明の面白さが光ったのは、浅野内匠頭はなぜたった一時間の取り調べで切腹に?という、解説。視点の置き所はなかなかです。しかし、入試問題はやっぱりつまらなすぎ。こんな入試で選抜しているから、大学から世界を変えるような奴が出てこないのだと思います。クイズ王を入学させたい学校は、所詮二流の学校です。
 (本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
Pasted Graphic 4

読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★

日本史のツボ 本郷和人 文藝春秋

七つのツボを押さえれば、日本史がわかるという整理のもと、天皇、宗教、土地、軍事、地域、女性、経済という観点から、非常に短いコラムが寄せ集められた本です。
ツボ単位にまとめて、日本史の流れを整理してほしかったと思います。どちらかというと、雑学辞典のようになってしまい、それも、前後の関係性がないので、読み終わった後、何がいいたかったのかなと考え込んでしまいました。また、ここの雑学が、あまりにも薄い。それぞれを、原稿用紙2~3枚でまとめよという制限があったのでしょうか。
7つのツボと言われるが、逆にそれ以外にどのような視点があるのかと問いたくなります。それぞれのツボに新しい切り口が欲しかったと思います。せめて、個々の話に、原稿用紙
5~6枚分ぐらいのボリュームがあれば、引き込まれたかもしれません。
(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
Pasted Graphic 4

読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★
論理の力強さ ★★

日本史の論点 中公新書編集部編 中公新書

邪馬台国から象徴天皇制までと副題に書かれているように、決して古代史の論点だけを取り上げた物では成りません。私がコメントをするのは、第一章古代の倉本一宏さんの部分だけとさせていただきます。
魅力的な本書のタイトルに対して、この本が何を言うための物なのかということが、いまいちわかりませんでした。邪馬台国、大王はどこまでたどれるか、大化改新、道鏡、墾田永年私財法、そして、武士はどのように台頭したかというのが、古代史の論点として取り上げられています。これらの論点は、確かに、論文の数の多い分野ではあるのでしょうが、そこに書かれている内容は、どうして論点となったのかという歴史であって、何に終息しているかという点であって、その論争が生み出した成果は書かれていません。そして、なぜか筆者の意見が論争の結論のように書かれています。決して、新しい解釈でもなければ、論争により生み出された新たなる真実でもありません。
高校の国語の副教材に文学史というのがありましたが、内容を読まずに人名と数行の解説を読むことの意味がわからなかったことを思い出しました。
第五章現代の宮城大蔵さんのところは面白かった。そういう見方もあるのかと確かに感じました。
(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
Pasted Graphic 4

読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★

日本史はこんなに面白い 半藤一利 文藝春秋


文藝春秋社で、週刊文春や、文藝春秋の編集長を歴任された方です。「日本のいちばん長い日」を書かれた人と言われると、「あー」と言われる方も多いのかもしれません。私もその口でした。昭和史というのがいいのでしょうか。近代日本の本当の姿と言うのを追い求めた方なのかもしれません。
ご本人は歴史探偵と言われているようです。この本では、文藝春秋時代に作ったであろう人脈を使って、様々な魅力的な人との対談をして、纏めておられます。
やはり、近代史分野はお強いのか、かなり突っ込んだ内容を話されていますが、私にはあまり関心のない分野になります。やはり、中西進氏との聖徳太子、高橋勝彦氏とのアルテイが面白かったし、欲を言えば、もう一歩突っ込んでほしかった箇所でもありました。なるほどなーと思えたのは、井沢元彦さんの織田信長像、荒俣宏さんの妖怪も面白かった。
でも、買うほどの本じゃないようにも思います。
(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
Pasted Graphic 4

読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★

東日本と西日本 大野晋ほか 洋泉社

今の私達にとっては、日本と言う国があまりにも東京中心に出来上がっているので、全ての情報や文化は東京を中心に放射線状に広がっていく物だと言うイメージがあります。そのためなのでしょうか。古代史を調べらていると、当初、東日本と西日本の違いに大きな戸惑いを覚えてしまいました。中国や、朝鮮半島の渡来人がもたらした文化が、北九州から東へ、東へと広がっていったのだという理解はできても、その拡大がなぜ、名古屋で止まってしまうのかが理解できませんでした。私の中では、その理由は、狩猟民族の縄文人と、稲作文化をもたらした渡来系の弥生人の違いに起因していると整理することにしているのです。そうでなければ、説明がつかないことが多すぎます。
そして、この本を読んでその思いは、より一層強くなりました。この本は、縄文人と弥生人の違いが、東日本と西日本の違いを作ったのだと言うことは一切言っていません。いろいろな視点にたって、東日本と西日本はこんなにちがうのだということを説明している本です。まず、私の好きな大野晋先生の「言葉」の違いの説明があります。私の中では、南方から渡って来た人々の発音と、中国・朝鮮半島から渡って来た人々の発音との違いが息づいているという考えなのですが、非常に面白い言葉の変化の違いの指摘されています。そして、身体の違いに移ります。皆さんはきっと、自分が東日本人か、西日本人かを認識されるのではないかと思います。それ以降は、時代とともに考察がはじまります。遺跡、源平、中世と続いていきます。明治まで到達したあと、宗教、民謡、文学で終わります。時代的には、東西の違いを作った要因として、鎌倉幕府が非常に大きかったのだなーということや、江戸文化がそれまでの日本文化と異次元のものとして作られて被さり、新しい東日本と西日本の違いを作り上げたんだなーということが分かります。少し読みづらい文章もありますが、なかなか、良い本だと思いました。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
Pasted Graphic 4

読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★

地図でたどる日本史 佐藤和彦 東京堂出版

歴史においては、どのような出来事であっても、地理的な制約や地理的な必然性がつきまといます。特に、古代にいけばいく程、地理的な要素というのは比重が高まるように思います。ほとんどの歴史書が、時間の流れで、つまり時間的な積み上げで物事を考え整理していますが、地理的な要素をもとに整理する本が会っても良いのではないかと考えていました。私が手にしたのは偶然でしたが、結構楽しめました。それぞれのテーマ別に、数頁で整理しています。教科書的な匂いのする本ですが、扱っているテーマは教科書からはかなり離れた内容です。私が個人的に、面白かった(初めて気づかされた)内容は、「アイヌと北方領土」「江戸の町づくり」「廃物希釈の嵐と抵抗」等です。どのテーマも味わい深かったですが、ページ数の関係で、割と表面的な解説に終わってしまっています。関心のあるテーマを見つけたら、つっこんで調べてみるというきっかけにするには良い本だと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
Pasted Graphic 4

読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★

ifの日本史 加来耕三 ポプラ社

歴史は過去の事実であるわけですから、「もしも」というものは存在しませんが、もしもと想像を拡げていくのは本当に楽しい物です。もしも、本能寺の変で織田信長が生き延びていれば、もし、関ヶ原で西軍が勝利していたら、など、知りうる人々の行動を考えるだけでも時間はどんどん過ぎていきます。私は古代史が好きですから、「磐井の乱が成功していたら」「壬申の乱が逆転していれば」「物部氏が蘇我氏を滅ぼしていれば」など、楽しく読まさせていただきました。ネタバレになってしまいますので、個別の「もしも」にコメントを入れませんが、残念だなーと感じたのは、作者の方にとってはその時々の、時代の趨勢を離れることはできずに予測をされていることです。時代の流れが変わらなければ、起こらない出来事が起こっても時間がずれるだけで100年、200年の単位では同じような時代が来ることに成ってしまいます。タイムマシンができて、ある時点の結論がひっくり返ったとしてもタイムマシンで到達した時間帯だけに変化が起こり、全体としての時代や考え方の流れに変動がおきないと考えられるのと同じ捉え方です。せっかく、「もしも」としてないことを想像するのですから、時代の枠を越えた世界を見せて欲しかったです。例えば、「磐井の乱」が成功していたら、現代においても、九州だけは別の国になっていた可能性は結構高いと思うのです。「筑紫国」と「日本国」が存在していたかもしれませんし、「筑紫国」はその地理的要因から、シンガポールのような発展の仕方をしていたかもわかりません。アメリカが重視したのは九州・沖縄でしたから、本州日本は共産国になっていたかもしれません。せっかくですから、そのくらいの飛躍があっても良かったかもしれないと思うのです。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
Pasted Graphic 4

読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★