ベスト本

前方後方墳の謎 植田文雄 学生社

前回「考古学教室」を紹介してから、「考古学を知るのに最も分かりやすい教科書は何?」という質問をいただきました。いろんな本があるのですが、私が必ず紹介するのが、この本です。何と言っても読みやすいし、分かりやすい。この植田さんという方の「前方後方墳」に対する思い入れがひしひしと伝わってくる、とても良い本だと思います。前方後方墳だけわかっても……. ご心配なく。古墳がどのように遷移したのか、古墳をどのようにして作るのか、そして、古墳をどのようにして見分け、どのようにして計測するのか。という全てが書かれています。そのための、土器の見分け方も書かれています。いたるところに散りばめられている、個人的な歴史観もなかなか面白い。狗奴国にまで突っ込んでいますが、「そうかもしれない」という説得力もある。まずは、読んでみてください。読んだ後、「神郷亀塚古墳」をとにかく見てみたくなりますが、実際行くと、ちょっとがっかりします。考古学とはそんなものだと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★

鉄剣の謎と古代日本 井上光貞他 新潮社

ここ最近、武蔵国を追い続けていたこともあり稲荷山鉄剣に関する書物ばかりを読んでいた。そして、その中でピカイチの本は、絶対にこの書だと推薦できる。シンポジウムでかわされたやり取りが収録されている本(最後に一部、数名の方の関連論文も掲載されている)ですが、非常に面白かった。井上光貞、大野晋、岸俊男、斉藤忠、直木孝次郎、西嶋定生。なんというラインナップ。古代史をやっている人から見ると震えがくるような大物ばかりの先生達である。まず、感じるのは、やっぱり違う。重鎮ならではの学識、畏れ入るばかりである。そして、専門が違うと見方も違う。同じ鉄剣を読み取るその姿勢の違いが面白い。本当に勉強になった。直木孝次郎大先生も、井上光貞先生の前では割と小さくなってしまうという印象も受けた。
学説では、私は、大野晋先生の取り組み方と推理が好きになった。この先生の切り込み方は本当にいい。無理があるのかもしれないが、一辺で好きになった。30年若ければ、間違いなく先生の講義を聞きに行ったと思う。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)

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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★★

「君が代」は九州王朝の讃歌 古田武彦 新泉社

国家である「君が代」は、小学生の頃より何度も歌っている歌であるが、作詞作曲者は誰?と聞かれて堪えられる方は何名いるでしょうか。皆様は答えられますか?
「えーと、確か、古今和歌集に載っていた……」と、言える方はかなりの歴史好きか、教養のある方であるとお見受けします。「古今和歌集」に載っていた「読人しらず」とされている歌であることは間違いなのですが、実は、もっと古くから九州の神社に代々伝わってきた歌であったと言うのが、話の大筋です。世に出ることになった経緯を解説のように折り込み、仲間の方と足跡を追っていく記載手順は、そのテーマとともに個人的に「やられたなー」と感じさせられる書物です。はっきり言って、うまいし、面白い。しかし、唯一その面白さを半減させてしまうのが、古田武彦氏の持論である「九州王朝」説です。なぜ、ここまで「九州王朝説」に固執するのか。まー、固執するからこそ、古田武彦でもあるのですが。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★

考古学と古代史のあいだ 白石太一郎 ちくま学芸文庫

時として学者というのは「やっかいなものだな」と感じる時があります。学問と真摯に向かい合うためには、予断や偏見は御法度なんだろうということはよくわかりますが、これほど多くの研究が進む中でどうして相互にそれを利用し、俯瞰的な目を持って古代史の研究が進められないのだろうと疑問をなげたくなることがあります。私は、学者ではありませんから、どんなものでも参考にします。日本書紀自体が偏見に満ちあふれているのですから、偏見も予断も大歓迎なのです。考古学に感心のある人の中で、白石先生の名前を知らない人はいないと思います。正しく、学会のトップを走る方ですが、考古学に留まらず文献の研究も尊重しようという姿勢は、正しく拍手を贈りたいと思います。この書は、古墳や副葬品を中心に、魏志倭人伝から倭の五王迄をやさしく解説し日本建国の姿を教えてくれています。優しい語り口が魅力でもあります。素直に、良い本だと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★★★

「日本書記」の暗号 林青梧 講談社

かなり面白い。真相の古代史という副題がついていますが、もちろん、真相かどうかはわかりません。というか、違うと思います。
朝鮮半島からやってきた渡来人達が、日本を作っていったという大きな流れは、その通りだと思います。そして、新羅系と百済系の対立があったことも事実であると思います。史実自体が、日本が幾度も朝鮮半島への進出を目指し、また、人質や有識者、技術者を受け入れて来たためです。しかし、日本がその時代、新羅に攻め込まれ押さえ込まれていたという事実はありませんし、百済に取り込まれていたという事実もありません。中大兄皇子が葛城皇子と金春秋のことで、大海人皇子が金多遂だというのは、最早史実から大幅にかけ離れており、説明できないことのほうが多過ぎます。
物語としては非常に面白い流れであると思いますし、時代の流れから推測を繰り返すアプローチも共感が持てます。歴史探求社おすすめの一冊です。個人的には、この書で引用されていますソウル大出版の文定昌氏の「日本上古史」は、なんとしても手に入れて、じっくり読んでみたいと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)

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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★★
論理の力強さ ★★★

邪馬台国見聞録 安本美典 徳間文庫

邪馬台国九州論の中で、東遷説を追い求める安本氏。理論構成も素晴らしく、数理的アプローチも非常に説得力があります。これまでの数々の学者の研究を4つのパラダイムに分け、解説した後、持論を展開されています。「甘木朝倉地域にあればいいですね」と声をかけたくなるような力作です。ただ、本人の中にあるジレンマのようなものを感じるのは私だけでしょうか。絶対、おすすめの一冊です。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★★