「君が代」は九州王朝の讃歌 古田武彦 新泉社

国家である「君が代」は、小学生の頃より何度も歌っている歌であるが、作詞作曲者は誰?と聞かれて堪えられる方は何名いるでしょうか。皆様は答えられますか?
「えーと、確か、古今和歌集に載っていた……」と、言える方はかなりの歴史好きか、教養のある方であるとお見受けします。「古今和歌集」に載っていた「読人しらず」とされている歌であることは間違いなのですが、実は、もっと古くから九州の神社に代々伝わってきた歌であったと言うのが、話の大筋です。世に出ることになった経緯を解説のように折り込み、仲間の方と足跡を追っていく記載手順は、そのテーマとともに個人的に「やられたなー」と感じさせられる書物です。はっきり言って、うまいし、面白い。しかし、唯一その面白さを半減させてしまうのが、古田武彦氏の持論である「九州王朝」説です。なぜ、ここまで「九州王朝説」に固執するのか。まー、固執するからこそ、古田武彦でもあるのですが。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★

吉備大臣入唐絵巻 知られざる古代中世一千年史 倉西裕子 勉誠出版

皆さんは、「吉備大臣入唐絵巻」という物の存在をご存知でしょうか?私は、この本で初めて知りました。どうやら、アメリカのボストン美術館にあるらしい。12世紀から13世紀に作られた物のようです。この絵巻物は、遣唐使であった吉備真備が唐へ入ったところ、唐の役人が「こんな優秀な奴が来ては、我々の立場がない」として、高楼に幽閉してしまいます。すると以前に唐に入り同じように幽閉されてしまい、そのまま死んでしまった阿倍仲麻呂が鬼となって現れます。唐の役人達が出す、様々な難題を二人で考え解いていくという話です。この設定を知った人は、この話だけでも最高に面白そうと感じられると思いますが、この説話は大江匡房が書いた江談抄という本に書かれているお話です。実はこの話の中で、吉備真備は難解な「邪馬台詩」の解読に成功します。暗号のようなパズルのような文字の羅列から読み解かなければならない詩なのですが、作者の倉西裕子氏はこの「邪馬台詩」を「邪馬台国」に結びつけて考えます。そして、絵巻物自体が、弥生から続く日本の古代史の様子を封じ込めた物だと解釈するのです。第一章で古代を読み取り、第二章では、絵巻物に描かれた天平時代を読み取り、第三章では平安末期を読み取ります。全ての時代が凝縮されている絵巻という捉え方もできますが、倉西氏の歴史観を絵巻を通じて見た本という方が正しいかもしれません。題材が面白いだけに、「惜しいなー」というのが正直な感想です。ボストン美術館に行って、この絵巻は必ず見てきたいと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★

考古学と古代史のあいだ 白石太一郎 ちくま学芸文庫

時として学者というのは「やっかいなものだな」と感じる時があります。学問と真摯に向かい合うためには、予断や偏見は御法度なんだろうということはよくわかりますが、これほど多くの研究が進む中でどうして相互にそれを利用し、俯瞰的な目を持って古代史の研究が進められないのだろうと疑問をなげたくなることがあります。私は、学者ではありませんから、どんなものでも参考にします。日本書紀自体が偏見に満ちあふれているのですから、偏見も予断も大歓迎なのです。考古学に感心のある人の中で、白石先生の名前を知らない人はいないと思います。正しく、学会のトップを走る方ですが、考古学に留まらず文献の研究も尊重しようという姿勢は、正しく拍手を贈りたいと思います。この書は、古墳や副葬品を中心に、魏志倭人伝から倭の五王迄をやさしく解説し日本建国の姿を教えてくれています。優しい語り口が魅力でもあります。素直に、良い本だと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★★★

「日本書記」の暗号 林青梧 講談社

かなり面白い。真相の古代史という副題がついていますが、もちろん、真相かどうかはわかりません。というか、違うと思います。
朝鮮半島からやってきた渡来人達が、日本を作っていったという大きな流れは、その通りだと思います。そして、新羅系と百済系の対立があったことも事実であると思います。史実自体が、日本が幾度も朝鮮半島への進出を目指し、また、人質や有識者、技術者を受け入れて来たためです。しかし、日本がその時代、新羅に攻め込まれ押さえ込まれていたという事実はありませんし、百済に取り込まれていたという事実もありません。中大兄皇子が葛城皇子と金春秋のことで、大海人皇子が金多遂だというのは、最早史実から大幅にかけ離れており、説明できないことのほうが多過ぎます。
物語としては非常に面白い流れであると思いますし、時代の流れから推測を繰り返すアプローチも共感が持てます。歴史探求社おすすめの一冊です。個人的には、この書で引用されていますソウル大出版の文定昌氏の「日本上古史」は、なんとしても手に入れて、じっくり読んでみたいと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)

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着想の奇抜さ ★★★★★
論理の力強さ ★★★