人物埴輪を語る 金井塚良一 さきたま出版会

遺跡や古墳からの出土品では、武具、鏡、刀剣、管玉などがどうしても注目を浴びますが、最も多く出土しているのは土器であり、そして、埴輪です。日本書紀の中では、垂仁天皇の条に野見宿禰の提言により殉死の制度がなくなり、埴輪が古墳に並べられるようになったこと、そして、土師臣の姓を与えられたことが記載されていました。しかし、こと人物埴輪に限ると、あれほど注目されているにもかかわらず、近畿地方ではほとんど存在しないことがわかっています。ほとんどが、東国と言われた関東圏の古墳で多用され、いろいろな表情の埴輪が取り上げられるようになりました。その限定的な発展のせいなのかどうかはわかりませんが、埴輪に関する専門研究者は非常に少なく、書物もあまり見かけません。私も博物館で飾られている埴輪の表情に魅かれて興味をもった一人です。当社のロゴには埴輪を拾い上げる「こだのぶ」が描かれていますが、古代人が何を言おうとしていたのかは実に興味のある素材です。それだけに、この本に期待をしたのですが、はっきり言って前半部分で得たものは何も有りませんでした。前半は、川島とかいう人との対談ですが、川島なる人物が持論を持たないせいなのか内容がかえってピンぼけしてしまっています。前半部分は不要だったのではないでしょうか。そもそも、全編を通して、なぜにそこまで水野正好氏に気がねする必要があるのか。このことが全く理解できません。いろんな説があって至極当然ですから、「違う」ものは「違う」と言い切って言いと思います。ただ、後半の「人物埴輪の伝播と上毛野氏」は素直に面白かった。賛成しきれないところも多々有りますが、読み物としてもなかなかです。それだけに前半があまりに残念でした。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★

情報考古学 堅田直 ジャストシステム

考古学とは、人類が残した痕跡を研究し人類の活動や移り変わりを証明する学問だと思います。記録が無い時代には、残された痕跡によってのみその時代の姿を知ることができますので、日本においては今から1300年より古い時代においての研究が注目を浴びます。しかし、発掘調査は決して古代史のみを対象として行われているのではなく、中世や近世の歴史に対してもあちこちで実施されているのが現状です。従って、考古学は時間軸に対して非常に幅広い学問だと思ってきましたが、最近は時間軸だけでなく、時間軸を縦軸とするなら横軸も大きく拡げ始めたようです。
近年では、一部の方々が盛んに行われている「実験考古学」という分野が大きくとりあげられています。また、東日本大震災の後は、「地震考古学」と呼ばれる地震の痕跡から遺跡を研究するような分野もあちこちで目にするようになりました。他にも韓国で盛んに行われている「水中考古学」や、少数民族を研究する「民族考古学」などもあったと思います。
さて、情報科学もしくは、情報工学はコンピュータの普及に伴って今や主流の学問のひとつとなりましたが、この技術を使って大量のデータを統計学的に読み取ろうというのが「情報考古学」と呼ばれる分野のようです。「ようです」というのはなんとも迫力のない言い方なのですが、間違っていればすいません。書を読む限りにおいて、そのような主旨だと理解いたしました。というのも、記載内容は統計解析に近い内容です。情報科学と、統計解析は似ているようで異なる分野の学問です。統計解析で学位を取った私にしてみますと、内容は、情報科学と考古学の融合ではないと感じます。出土物がもつ情報をどのように体系化させて整理し、解析するかというアプローチは決して間違っている物では有りません。それだけにイマイチ物足りなさを感じました。出土物の情報の整理の仕方は平成の現代においても、残念ながら江戸時代とさほど変化がありません。もう少し、科学的にできないものかと思い悩む者として、このような考え方で試みようとされている人がいると知ることができたのは、嬉しい書物でもありました。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★