古代史

天照大神は卑弥呼だった 大平裕 PHP

この方は、他人の論文は間違いを生き生きと指摘されますが、自分の論理の欠陥は全く見えないようです。「卑弥呼に比定しうる人物は「古事記」「日本書記」で特筆されている天照大神」においてほかになかったはずなのです」から論理が出発します。「ええ?」と思うと、次の言葉が「天武持統朝の最高級の知識人たちは、紀年・暦の知識に欠けていたことから、180248年に活躍した卑弥呼を、360年~390年頃の神功皇后に間違って比定してしまいました」という理解です。最早、最初の一歩で、本一冊を無駄にしてしまっています。
そもそも天照大神が女神でなかったことを知ったら、彼はどうするのでしょうか。紀年・暦の知識が欠けているはずがないでしょ。知っていて書いているのです。神功皇后?そんな人物は創作です。
題名に惹かれて、手に取ってしまった私が馬鹿でした。
PHPさんも間違いをすることもあるということですね。残念です。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★
論理の力強さ ★

日本語の正体 金容雲 三五館

「日本=百済」説があまりにも、傑作であったため、どうしても読みたくなり、頑張って探してきてじっくり読ませていただきました。百済語が日本語で、百済語を投げ出したのが韓国語だったという発想、また結論は秀逸です。しかしながら、中に記述されている、カラ語というのが、どこから登場してくる言葉なのか全く理解できません。
そして、カラ語から、日本語への変化の様子が、多くの例を示しながら書かれているにも関わらず、そこには、まず、法則がないために、なぜ、そのように変化するのかが理解できない。
別の音に交換されるのも、音が脱落するのも、必ず、理由があり、それが変化の法則として整理されて初めて、言葉の変化、転訛が示され、源流であることが証明されるのだと思います。
彼は言語学者ではないですから、仕方ないのかもしれませんが、理学博士?であるなら、実証の方法はご存じだと思います。正直残念でした。
Hontoが、Usoに変わりますと言われてhonUになり、tがsに変わりますと言われても、「ああそうですか」と答えるしかないのと同じです。。着目点は素晴らしいだけに、残念な一冊です。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★

「日本=百済」説 金容雲 三五館

こんなことを言っては、おこがましいことは十分承知していますが、私が辿り着いた日本建国の歴史に非常に近いのが、この人の分析です。私のアプローチは、日本書紀と日本語から始めて、中国の史書を読むことで、多分間違いないと確信が持てた内容です。つまり、私は、日本人として、日本という環境の中で日本中心にものを考えて、この結論にたどり着きました。この金容雲氏は、韓国人として三国史記から始めて、百済を矮小化していると気付き、突き詰めていった結果、この日本は百済であったという説に辿りつかれたようです。
誤解がないように言っておきますが、私は、日本が百済の一部であったとも、属国であったとも考えていません。兄弟国であったと理解しています。なぜ、兄弟国であったのかという理由は、この書に書かれている内容とほぼ同じです。
少し残念なのは、論理が弱い点です。説得材料が、若干乏しいように思います。もちろん、強い説得材料があったなら、日本史の教科書はとっくの昔に変わっていることになりますが。でも、彼が言っていることは、間違っていません。なんとかして、私は、そのことをきちんと実証したいと思います。

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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★★
論理の力強さ ★★★★

学問と夢と騎馬民族 江上波夫 日本経済新聞社

騎馬民族征服王朝説の江上波夫先生を知る一冊。私にとっては、幼少期や、中学、高校、大学時代のお話などどうでも良いのだが、それなりに面白く読ませていただいた。古代史などと言う学問分野は、あくまでも世の中に必要なものとは認識されていなかったのだと言うことが良くわかる内容でもありました。
何と言っても、II部「学問は探検である」が、この本のすべてです。とくに「日本における民族の形成と国家の起源」は、すべての古代史ファン、考古学ファン、考古学の研究者に是非とも読んでもらいたい文章です。1964年に東洋文化研究所紀要に掲載された論文です。まさしく古代史の教科書。必見です。絶対のおすすめの文章です。この論文のために、この本を手に取って下さい。
その後の、牧畜騎馬民族と農耕都市民族の違いも面白かった。生涯にわたり、騎馬民族を追い求めた江上波夫先生の史観です。やっぱり、江上波夫先生は素晴らしい。そう感じました。

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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★★

考古学が解き明かす古代史 古庄浩明 朝日新聞出版

編集が良く考えられていて、確かに「すらすら読める!」は嘘じゃない。
まったく考古学に興味のない人を惹きつけるには、良い本だと思いました。できるなら、中学生にこの本を読ませたい。
ただ、何か所か首をかしげたくなる箇所が存在しました。その一つが、「卑弥呼墓私論」。中山大塚古墳説。河岸段丘の上にあってというのはそうかもしれない。でも、普通の古墳は皆そうですが。川が氾濫するような場所に古墳は作りません。やはり、築造時期と名前から特定するというのは、ちょっとちょっと乱暴すぎます。邪馬台国の墓が前方後円墳であったなら、伊都国、奴国の墓も前方後円墳でなければおかしいです。
最後の言葉が効いています。「卑弥呼の邪馬台国は、古代史のロマンです。解き明かすことは不可能でしょうし、ときあかされないでほしい気もします。みんながそれぞれ解き明かそうと努力するところにこそ、ロマンといわれる所以があるからです。」
おい、おい。何言っとんねん。自信がないのなら、そんな説は、載せないでほしかった。
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★

「日本書紀」の呪縛 吉田一彦 集英社新書

本と日本史というシリーズの第一巻です。日本書紀に書かれている詳細を検討しようという本ではありません。日本書紀という書物によって、何が生まれたか、何がかわったか、また、日本書紀の研究にはどのような歴史があったか、そして、日本書紀というものをどのようにとらえればよいのかという内容が書かれた本です。
日本書紀という書物の、副次的考察をまとめたものと言えばいいのかもしれません。驚くべきような情報はないのですが、こういう本はなかったために、私には新鮮な感覚がありました。
それぞれの内容が、簡単に整理されていて、読みやすくもありました。また、簡単にまとめるために、作者の断定になっているのですが、いくつかのポイントで、「うーん、それはどうかな」という感想も持ちました。
欲を言うなれば、日本書紀があることで、これだけ世の中が変わったという指摘が欲しかったと思います。この本がなかったなら、どのように歴史は変わったかを言って欲しかったと思います。
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★

日本書紀はなにを隠してきたか 遠山美都男 洋泉社


私は、日本書紀は、なにかを隠そうとした書物ではなく、理想の日本の歴史として描かれた書物であると認識しています。従って、意図的に隠された内容はなかったと思いますが、それまでに残されてきた歴史的な記録が書き換えられた内容は多々あったと思います。
着目された内容は、聖徳太子、大化改新、壬申の乱、女帝の時代、その他では白村江の戦い、蘇我物部戦争、騎馬民族渡来説、卑弥呼など、非常に注目度の高い箇所を取り上げ、問題点をうまく整理されていると思います。ただ、残念ながら新説はなく、これまで言われていることを纏め上げたものと言う内容になっています。
テーマの取り上げ方は面白いと思いますし、読みやすくまとめられていることも確かです。「そうなんだけどね」というのが、私の感想です。
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★

女帝の古代日本 吉村武彦 岩波新書

卑弥呼、壱与、神功皇后、飯豊皇女、女首長、そして推古天皇に始まる女性天皇を皇極、斉明、持統、元明、元正、孝謙、称徳天皇まで。
読み終わった時、「そうですよねー、確かに。」と、高校で習った日本史の授業を復習したなーと思える作品です。よくまとまっており、それぞれの天皇の人柄のようなものも少し覗けるのですが、まったく、日本書紀の焼きうつしになっており、新たな説は残念ながら見ることはできませんでした。読みやすく、理解しやすいという点ではいいのかもしれません。
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★
論理の力強さ ★★★

日本古代史を科学する 中田力 PHP新書


非常に鼻につく様に感じるのは、断定口調が多いせいでしょうか。自然科学の論理と手法を用いない人文科学なる物は2流の学問であるという論調でまくし立て、自分が推定する邪馬台国宮崎説に対しては「どの様な権威者がどの様な詭弁を使ったとしても、「魏志倭人伝」を前提とする条件を設定する限り、理論的にこの結論を否定できないのである」なのだそうです。私に言わせれば、「誰も否定しきることはできないかもしれませんが、誰も肯定することができない説」だと思います。
科学と言いながら、次に出てくるのは(自分で行ったのではない)DNAの解析結果からの、弥生人がどこから来たのかの推論です。科学と言うのであれば、もう少し、DNAの分析結果をクラスター分析か何かを使って、説得力のある説明をしてもらいたかったと思います。後半の、出雲と四王朝説に至っては、最早、科学でもなんでもない。中国史の大きな流れだけの上での作者の空想でしかありません。科学はどこに行ったのでしょうかと言いたくなりました。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★
論理の力強さ ★★★

蘇える古代史 豊田有恒 青春出版社

豊田有恒さんと言えば、SF作家。実際、学問としての古代史とSFとの境界線は非常に曖昧です。「ムー」という雑誌がありますが、この雑誌が扱うと古代史も完全にSFの世界に引き込まれます。宇宙人が作ったと言われれば、笑い話にはできますが誰も否定はできません。古代文明は宇宙人が作ったと言ってしまうのは、真実の追求からの逃げなのではないでしょうか。この本は、決して、宇宙人が作ったと言っているのではありません。公平な目で、かつSF作家の目で古代史を眺めておられるのです。エッセイとして味わっていただければと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★

倭国の謎 相見英咲 講談社選書メチエ

邪馬台国を論じる本は多数ありますが、倭国の中で、いかにして邪馬台国が勝ち残って行ったのか、他の国から抜きん出て行ったのかを示した本は、見たことがありません。なぜ誰も示せないかというと、そこには魏志倭人伝しか資料がないからなのですが、それでも、わかっている内容から読み解ける秘密はあるものです。
アズミ氏の日本列島各地への展開を、魏志倭人伝に記載された国名から見つけだした鋭さには、まさに拍手です。勿論、それを裏付けるだけの証拠が示せないのは残念ですが、私は「奴国論」に大いに可能性があると思いました。そこから任那へつなげる展開も素晴らしい。思わず、なるほどと唸らされました。
加えて、出雲の荒神谷遺跡から出土した358本の銅剣。これが、何故に358本なのかを読み解いて見せた眼力には敬意を表します。素晴らしい論理です。
前半があまりに素晴らしかっただけに、本の後半の説は少し残念だというのが正直な感想です
でも面白かった。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★★
論理の力強さ ★★★★

古代の琉球弧と東アジア 山里純一 吉川弘文館


沖縄以外の日本人は、沖縄の歴史を学校で学びません。古代、中国の正史の中でも、隋書では「倭人伝」と「流求伝」は別にして記載されていました。沖縄が日本の九州、本州、四国とは全く別の歴史を育んできたのですが、その根本を知らずに、現代起こっている沖縄の基地や辺野古の問題も語ることはできないのではないかと思います。もちろん、古代史までも知る必要があるかは別ですが、沖縄の古代史が、九州、本州、四国と全く違った歴史を持っていることを知るのも興味深いことだと思います。日本書紀に登場するのは、屋久島や種子島、奄美大島までです。その先の琉球諸島は全く登場してきません。隋書「流求伝」に書かれた、その風習や食生活には愕然とさせられるものがあります。本当のことなのか?と疑いたくなりますが、嘘であるとするなら、隋書倭国伝も中国の正史自体の記述を否定してしまうことになってしまいます。まずは、読んでいただきたい。そして知っていただきたい。その上で、いろいろと考えていただきたいと思います。私は、日本人の祖先がやはり南洋の島々からやってきたのだという確信をこの書を通して得ることができました。感想は人それぞれだと思いますが、まずは是非知ってもらいたいと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)

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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★

卑弥呼の食卓 大阪府立弥生文化博物館 吉川弘文館


食文化というものは、人間活動の根源から生まれる文化だけに、その内容を調べるととてつもなく大きな動きも見えてくるということがよくわかった一冊でした。弥生人が何を食していたかというのは、正直それ程深く考えることはなかったのですが、そこをつきとめなければ何も見えてこないということなのかもしれません。稲作が始まったのは弥生時代だと勉強しましたが、確かに一般庶民が米を食べられたのかというようなことは真剣に考えたことはありませんでした。
また、食べ物を研究するのに、炭化した米や、木の実、残された骨などだけではなく、人間の糞を調べるということの奥深さがよくわかりました。藤原京では既に、男子トイレと女子トイレが分かれていたというのも、意外な発見でした。それ以上に、多くの寄生虫とともに、暮らしていた弥生人や飛鳥時代の人々の食生活を考えるにあたり、人間が食べ物を求めて生活をしていたと考えるなら、住居跡のある地域が意味しているものも大きく違って見えてきました。
いろいろと勉強になった本でした。
唯一残念だったのは、本の題名でした。卑弥呼は関係ありませんよね。素直に名前をつければ、もっと評価されていたのではないでしょうか。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★★
論理の力強さ ★★★★

日本史の誕生 岡田英弘 弓立社


岡田先生は、東洋史の先生です。そのせいでしょうか。目は中国から物を見ると言う目をもたれているように思います。それが悪いと言うわけではないのですが、日本に残されている文献や木簡等の記述も少しは考慮してもらえればと思わざるをえません。岡田氏に言わせると、日本書紀なんてものは天智・天武・持統がはじめて日本国というものを作った時に、その時代の内容に合わせて書いた歴史書であってそれ以外の何物でもないと言われます。ましてや、古事記なんてものは、偽書であり日本書紀を見て書かれた物だとのことです。そうなると、何を信じて歴史を見るのかと言うと、中国における正史以外にないというのが岡田先生の考え方です。そこで、日本書紀など、全く無視して考えられる世界とは、日本は卑弥呼の時代があり、邪馬台国は瀬戸内海にあって、その後、大阪にいた酋長らしき人物が、中国と国交を始めた。これが仁徳天皇だと言われます。ただ、あくまで部族の長以外のなにものでもないということになります。応神天皇は気比神宮で名前を交換された通り、作られた人物なのだそうです。仁徳の後倭の五王が登場し、その後、播磨王朝ができて、すぐに越前王朝に乗っ取られます。そうやって、徐々に日本は作られていくのだそうです。ご存知のとおり、裴世清が会ったのは男性の王です。だから、推古天皇なんていなかった。と痛快なばかりの一刀両断です。ただ、面白いな、なるほどね、と思わせてくれる箇所も多々あることも事実です。中国人が混ざってできた日本人の起源には、私も同意する箇所はあるのです。また、日本語の起源も面白かった。こねくり回すのではなく、平易に書かれていますので、突っ込みながら読める本です。弓立社という変わった会社から出版されていましたが、同じ内容でちくま書房から出ていますので、そちら購入してください。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★

神々の謎 小椋一葉 河出書房新社

タイトルの響きがよく興味を魅かれます。「万葉の歌とともに」という副題までついているので、万葉集を読み解きながら日本の古代の神々を見ようというのかと期待しました。紹介されているのは、気比神社、住吉大社、八幡大神、天満天神、春日大社、賀茂神社、日吉大社、松尾大社です。気比、住吉、八幡迄は良いとしても、天満天神以降は全て由緒がはっきりわかっている神社がならびます。それでも、何かあるだろうと読み進めますと、「ニギハヤヒ」の神が登場します。ニギハヤヒは、神武天皇が東征を行う時の戦いの相手であるナガスネヒコが奉じる神様です。日本書紀では、天孫降臨をしニニギに先立って、河内国に降り立ったと書かれています。つまり、天孫族でありながら、北九州にやってきたニニギ一族とは別の渡来人で大和にすみついていた種族ということになるのでしょうか。さて、何が書かれているのかというと、気比神社も、住吉大社も、八幡大神も、天満天神も、春日大社も、賀茂神社も、日吉大社も、松尾大社も、元を正せば全てニギハヤヒだという説です。八幡大神ぐらいから、「えっ?また?」となるのですが、頑張りました。最後迄読んでいて多分大きな誤解があるのではないかと思いました。もともと、山に神が宿るという発想から日本の神は始まりました。理由は明白で、天に近いためです。その代表格は、高御産巣日神(たかみむすび)の神です。従って、大きな神社が置かれている場所には、当然、山が存在します。それをもって、ここも同じだから「ニギハヤヒ」というのはどんなものでしょうか。気比神社、住吉大社、八幡大神だけは、もっともっとつっこんでほしかった。なぜ、住吉大社が生まれたのか、八幡大神が生まれたのかを探ることは真の意味の日本の姿を解明することにつながるはずなのです。あと、副題の万葉集はどこにいってしまったのでしょうか。それなりに、縁起などを分析されているだけに、この本の失敗は、筆者の責任ではなく編集者の責任だと思います。筆者が言いたかったことを理解した上で、編集し直せば読み応えのある本に変わると思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★

人物埴輪を語る 金井塚良一 さきたま出版会

遺跡や古墳からの出土品では、武具、鏡、刀剣、管玉などがどうしても注目を浴びますが、最も多く出土しているのは土器であり、そして、埴輪です。日本書紀の中では、垂仁天皇の条に野見宿禰の提言により殉死の制度がなくなり、埴輪が古墳に並べられるようになったこと、そして、土師臣の姓を与えられたことが記載されていました。しかし、こと人物埴輪に限ると、あれほど注目されているにもかかわらず、近畿地方ではほとんど存在しないことがわかっています。ほとんどが、東国と言われた関東圏の古墳で多用され、いろいろな表情の埴輪が取り上げられるようになりました。その限定的な発展のせいなのかどうかはわかりませんが、埴輪に関する専門研究者は非常に少なく、書物もあまり見かけません。私も博物館で飾られている埴輪の表情に魅かれて興味をもった一人です。当社のロゴには埴輪を拾い上げる「こだのぶ」が描かれていますが、古代人が何を言おうとしていたのかは実に興味のある素材です。それだけに、この本に期待をしたのですが、はっきり言って前半部分で得たものは何も有りませんでした。前半は、川島とかいう人との対談ですが、川島なる人物が持論を持たないせいなのか内容がかえってピンぼけしてしまっています。前半部分は不要だったのではないでしょうか。そもそも、全編を通して、なぜにそこまで水野正好氏に気がねする必要があるのか。このことが全く理解できません。いろんな説があって至極当然ですから、「違う」ものは「違う」と言い切って言いと思います。ただ、後半の「人物埴輪の伝播と上毛野氏」は素直に面白かった。賛成しきれないところも多々有りますが、読み物としてもなかなかです。それだけに前半があまりに残念でした。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★

情報考古学 堅田直 ジャストシステム

考古学とは、人類が残した痕跡を研究し人類の活動や移り変わりを証明する学問だと思います。記録が無い時代には、残された痕跡によってのみその時代の姿を知ることができますので、日本においては今から1300年より古い時代においての研究が注目を浴びます。しかし、発掘調査は決して古代史のみを対象として行われているのではなく、中世や近世の歴史に対してもあちこちで実施されているのが現状です。従って、考古学は時間軸に対して非常に幅広い学問だと思ってきましたが、最近は時間軸だけでなく、時間軸を縦軸とするなら横軸も大きく拡げ始めたようです。
近年では、一部の方々が盛んに行われている「実験考古学」という分野が大きくとりあげられています。また、東日本大震災の後は、「地震考古学」と呼ばれる地震の痕跡から遺跡を研究するような分野もあちこちで目にするようになりました。他にも韓国で盛んに行われている「水中考古学」や、少数民族を研究する「民族考古学」などもあったと思います。
さて、情報科学もしくは、情報工学はコンピュータの普及に伴って今や主流の学問のひとつとなりましたが、この技術を使って大量のデータを統計学的に読み取ろうというのが「情報考古学」と呼ばれる分野のようです。「ようです」というのはなんとも迫力のない言い方なのですが、間違っていればすいません。書を読む限りにおいて、そのような主旨だと理解いたしました。というのも、記載内容は統計解析に近い内容です。情報科学と、統計解析は似ているようで異なる分野の学問です。統計解析で学位を取った私にしてみますと、内容は、情報科学と考古学の融合ではないと感じます。出土物がもつ情報をどのように体系化させて整理し、解析するかというアプローチは決して間違っている物では有りません。それだけにイマイチ物足りなさを感じました。出土物の情報の整理の仕方は平成の現代においても、残念ながら江戸時代とさほど変化がありません。もう少し、科学的にできないものかと思い悩む者として、このような考え方で試みようとされている人がいると知ることができたのは、嬉しい書物でもありました。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★

南方神話と古代の日本 中西進 角川選書


万葉集の中西先生がシンポジウムの進行役をなされ、その中での様々な先生方の講演をまとめられた本です。多方面から南方文化の影響を報告するのは面白いのですが、今一、スバッと核心を突くと言いますが、これこそが南方から日本人がやってきた証拠であると突きつけてくれるものが存在しませんでした。梅原猛氏の米作が中国から直でやってきたという考察、上田正昭氏の隼人論、井上秀雄氏の南西諸島に残る痕跡、千田稔氏の海人族だからという説、金関恕氏の貝文化、中西進氏の神話を構成する火と水の概念、山折哲雄氏の八幡神、岩田慶治氏の南方民族の文化。どれもこれも、根底にあるのは、縄文人が南方からやってきたのだろう、という推論ありきで、それと関係あるだろう内容を導き出したような内容になっていました。縄文人が南方からやってきたのも、米が中国から直接伝わったのもそのとおりだと思いますし、南西諸島を伝わって来たという流れも会ったと思います。期待したのは、DNA鑑定のような明白は回答だったのですが、それを歴史の痕跡の中に探すのは難しいのかもしれません。高床式建物が、南方の民族の建築物と似ているというような話ではなく、もう一歩踏み込んだ、高床式の木の組み方や、柱の置き方が全く同じだというような研究調査結果が聞きたいと思いました。それが、隼人の遺跡と同じであるとかいうのであればよかったのですが。読んでいて以外に感じたのは、八幡神がここでとりあげられていることです。南方の神もしくは神話であるとは考えにくいですし、八幡神がどのように南方神話とかかわっているのかは理解できませんでした。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)

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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★

攘夷の韓国 開国の日本 呉善花 文芸春秋

呉善花(おそんふあ)さんをご存知でしょうか。彼女は、この本の中でも書かれていますが、済州島出身の韓国の人でした。今は日本に帰化されています。韓国批判が辛辣なせいでしょうか。去年でしたか仁川空港で入国拒否になってしまいました。以前もあったとおもいます。この本は、最近のように辛辣な韓国批判をなさる前の作品です。この本の中では、自分を「さすらい」人とおっしゃって、韓国から日本の土壌に溶け込もうとする中で、揺れ動く気持ちを描いておられます。私は日本で生まれて育ちましたが、仕事で韓国に駐在していました。その時、なんとか韓国の人々と同化しようと結構努力しましたが、日本という環境で育ち作られてしまった感性のせいでしょうか。韓国の人々の中では、どんなに打ち解けてもどこかに疎外感を感じてしまいました。それを結局最後迄ぬぐい去ることができませんでした。それが、「さすらい」人の感覚なのかもしれません。この本は、エッセイなんですが、そこに古代の朝鮮半島から日本へやってきた渡来人の歴史をからませて書いておられるのです。飛鳥、北九州、出雲、相模・武蔵と古代の渡来人の足跡を追っておられます。何度も書かれているのが、「元々韓国人がもたらした神だったかもしれないが、韓国人はそれを失ってしまっているのに、その神を日本人は祀って大切に育てた」と言う内容です。そして、それこそが異文化を進んで受け入れ同化してしまう日本人の特質だと言われています。そうなのかもしれません。とっても良い作品だと思います。山本七平賞を受賞されています。唯一気になってしまうのは、文章の端々で日本人に対して気を使い過ぎだと感じる表現です。他の書物では、韓国をバシバシ批判されていますが、それは呉善花さんが未だ韓国の人であるからこそできることなのかもしれません。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★★

古代遺跡謎解きの旅 松本司 小学館


筆者は、現代の風水師と呼ばれる方のようです。風水もしくは
堪輿(かんよ)と呼ばれるものは、割と新しいとされていますが、陰陽五行説として確立される前においても、中国では古代から占いの術として、巒頭(らんとう、天地のこと)と呼ばれる天文知識と合わせて地形を読破する術があったとされています。元をたどっていくなら、「易経」などの知識から派生したものと思われますが、そのとっかかりは伏羲(ふっき)などまで辿り着くのでしょうから、そうすると、紀元前3000以上前から熟成された知識であると言うことができます。ただ、これらの知識がいつの時代に正式に日本に入って来たのかは、非常に不確かでありますし、私としては遣唐使の後になるのではないかと考えています。そうすると、本書では、出雲や纏向、藤原京などを風水によって分析されているのですが、藤原京はともかく、出雲や纏向にどれぐらいそのような考え方が生かされていたかは非常に疑問ではあります。
とは言う物の、卑弥呼は「鬼道」を操ったわけですし、出雲も銅鐸文化などが持ち込まれていたわけですから、そこにはなんらかの占術が確立されており、少なくともそれは、太陽の動きや天の動きと無関係ではなかったと考えています。本書では三内丸山遺跡も出てくるのですが、それも太陽の動きを抜きには語れないとは思います。
全体を通して、正直わかりにくい。たくさんの線がひかれ、菱形や正方形が出てくるのですが、菱形になっていなかったりして、理解に苦しむ点が多々有ります。筆者は自分の中で納得されているのかもしれませんが、もう少し、風水の発想の根源のような内容から出雲や纏向は立地を説明してほしかったと思います。読者がちょっと置いてきぼりになってしまいます。ただ、山岳信仰が存在し、太陽の動きを考慮した場所、そして、経験則から学んだのでしょうが地理的な共通要素は出雲や纏向には存在すると考えます。そのとっかかりをつかんでいると言えば、そうかもしれないと考えます。本書では取り上げられていませんでしたが、同じ地形的な発想は、原田大六氏が発掘した平原遺跡にも見られます。
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読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★

桃太郎と邪馬台国 前田晴人 講談社現代新書

作者は、おとぎ話が作られている根底には、「倭」の時代にあった出来事から発したなんらかの影響が残っているのだと考え、一寸法師、桃太郎、浦島太郎を検証しながら、「倭」の時代にあったであろう痕跡と結びつけていきます。そもそも、お伽噺のほとんどは、一部平安時代に遡る物もありますが、室町時代頃に作られたものが多く、江戸に入ってそれが本格的な物語にされたというのが現実だと思います。そこに、「倭」の時代の記憶が刷り込まれているのかというのは、やはり、大きな疑問ではあります。ただ、この本では取り上げられていませんが、竹取物語などは壬申の乱で功績があった実在の人物がでていますから、奈良時代にその原形が作られたのではないかとも言われています。そう考えると、可能性がないわけではありません。例えばですが、遣隋使や遣唐使として中国に渡った人が、久々に日本に変えると浦島太郎的な存在になるわけですから、海をわたっているから、とか、「鬼」というものは、とかは、やはりどの時代でも起こりうることだと考えられます。それを「倭」の痕跡と考えるのは如何な物かとは思います。ただし、丹後の遺跡や歴史の話が古代の「倭」やヤマト政権に繋がるというのは可能性が有ると思います。羽衣伝説や、天女伝説、浦島太郎の話は、少し可能性があるかもしれないと感じました。その点については、もう少し深堀してみても面白いのかもしれません。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★★★
論理の力強さ ★★★

記紀の考古学 森浩一 朝日文庫

今年最大の損失は、何と言っても「古代学」の提唱者である同志社の森先生を失ったことではないでしょうか。三角縁神獣鏡の国産説など、非常に丁寧な視点で物事を分析され多くの学説を提唱されました。松本清張氏の師でもあった方です。
今回紹介させていただくのは、「日本神話の考古学」に次いで出された「記紀の考古学」です。本当に博学だなーと感心するとともに、資料をこんなに丁寧に読むんだと教えられる書でもあります。名前、地名、用語は、一つ一つ丁寧に解説しながら読み進められます。読み進めていくと、断言して欲しくなる箇所もたくさんありますが、そこは非常に慎重であって、今後の課題だとされています。こんなに課題がたくさんあると、生きてるうちに終わらないんじゃないかと思いましたが、次の研究者に期待するという意味で記載されているのかとも考えます。森古代学は脈々と受継がれていくとは思いますが、古代史愛好家の皆様には、是非共読んでいただき、実在の有無に関わらず、なぜ記述があるのかという視点で物事を考えようとする精神を味わっていただければと思います。良い本です。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★★★

銅鐸民族の謎 臼田篤伸 彩流社

以前、どこかで、古代史研究家には信者になりたがる人がいて、教祖を祭り上げる傾向があるという話をさせていただきました。新興宗教の世界に似ています。現代の古代史の世界には、3名程の教祖様がいらっしゃいます。その中の一人が、古田武彦氏です。もちろん、私は古田氏の作品も好きですし、古田氏は悪くはない。しかし、この本の作者は、熱烈なる妄信的な古田信者です。まず、銅鐸とはというおさらいから入り、これまでのいくつかの説を紹介されています。序章としてはまずまず。そして、何を言いたいのかと思っていると、銅鐸は、「埋められたものではない」ということと、「外側を叩いて鳴らした」ということを繰り返し力説されています。埋められたか、自然に埋もれたかは確かに重要なことですが、何のために使ったのかが全く書かれていない。つまり、自説が何もない。初期のものは叩いたことは明白ですが、野洲市の巨大古墳を叩くために作ったかは疑問です。だからこそ、皆さんは形骸化し、神格化したのではないかと言っておられるわけで、誰もヨーロッパの釣り鐘のように使ったとは言っていません。後半になると、銅鐸から民族に話題が変わるのですが、内容は古田武彦氏の説をもう一度なぞっているだけで、そこには補足すべき研究もなければ、新たな視点も何もありません。正直、何のために書かれた本なのかと思ってしまいました。もちろん、書評であるならそれでもいいですし、古田説の解説書であるならそれもいいと思います。そうであるなら、一環してそうであってほしいと思いました。古田説を銅鐸から眺めてみたいと思われる方には、良い本なのかもしれません。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★
論理の力強さ ★★★

環日本海謎の古代史 清川理一郎 彩流社

日本の古代史を語る時、非常に残念ながら多くの人が日本史の中で物を見て考えておられる。もちろん、そういう視点は必要なのですが、国境がなかった時代、アイデンティティの違いが認識されていない時代において、現代の日本の範囲に留まらず、もっともっと大きな視野で見る事は大切な事だと思います。少なくとも、朝鮮半島と中国は必須であると考えます。私がこの本を手に取ったのは、邪馬台国を作った瀬戸内海を中心にした一族とは別に、日本海を中心に交易をしていた一族がいたはずという強い思いがあるからです。しかし、作者の視点は、インド・ヨーロッパの民族が移って来た、また、インダス文明と関係があったなど、最早都市伝説をも越えた空想世界になってしまいました。神社に祀られている神の時代(私は、古くとも弥生後期の頃だと思いますが)と、縄文もしくは先史時代とが混同されて論じられているために、その間のつながりがまったく飛んでおり、残念ながら説得力はありません。例えば、宇佐神宮に「日本列島が大陸と繋がっていた時代にすみついたプロト宇佐族」なる人々が、「縄文時代に製鉄を行い」「九州大学はそれを秘匿している」という論理から、応神天皇や宗像大社を論じようというのは、最早お話になりません。「大陸と繋がっていた時代」には、1500万年前です。考えられるとすれば、氷河期に氷の上を歩いて渡って来たのかもしれませんが、それでも1万年前ぐらいです。製鉄?何を作ったのでしょうかね。本に中で、唯一可能性があるのは、シュメール文化との関係です。私の知人の何名かの方も言われています。ただ、その人達は、「シュメール文化の影響を受けた高句麗の影響で」と言われています。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★

卑弥呼と冢 高瀬航太郎 新人物往来社

卑弥呼と冢
魏志倭人伝には、いろいろな解釈がありますが、新しい解釈を行うにはそれなりに説得力のある裏付けが必要かと思います。高瀬氏のこの書では、邪馬台国大和説であり、卑弥呼・台与の年代を孝昭天皇から開化・崇神天皇の年代に該当することが前提として進められています。3世紀頭に卑弥呼が実在したことは誰も疑いませんが。考昭天皇から開化天皇は第5代から第9代の天皇で、定説では欠史八代と呼ばれている天皇達です。これを実在したと考えて、卑弥呼が誰にあたるかを、記紀や旧事紀の中から推測するというのは、どのようなものかと思われます。十一県主の娘の大井媛であるということですが、「なるほどー」と思う人は残念ながら少ないと思います。また、卑弥呼の冢は、箸墓ではなく桜井茶臼山古墳だと言われます。しかし、この古墳は4世紀初頭に作られたとされており、特に、出土した三角縁神獣鏡の一つが群馬県蟹沢古墳で出土したものと同范鏡であるということがわかっています。卑弥呼の墓に、同范鏡を入れる?、例えそれが、元になった鏡だとしても複製用の型を入れるなどありえないと思います。逆にこの古墳には、宗像神社があります。九州の宗像一族との関係があると思われるため、私にはそちらのほうが魅力的です。本文中に、大和説を補強されようと思ったのか、「郡より一万二千里」の解釈として、直線距離にするとそのぐらいになり魏志倭人伝は正確だと書かれていますが、その当時直線距離をどうやって測ったのでしょうか。ちなみに、書の最後に「紀年論」の問題も語られていますが、コメントはありません。(下記の書名をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
卑弥呼と冢―魏志倭人伝の問題点を探る
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★
論理の力強さ ★★

古代史を解く『鍵』 門脇禎二・森浩一 学生社

丹後王国でおなじみの文献史学者の門脇禎二氏と、ヤマトを中心に考えない考古学者の森浩一氏の対談をまとめた本です。青龍三年鏡、地域国家、継体王朝の成立、氏姓制度、隼人熊襲蝦夷、古代の女性、木簡というテーマを基に様々な見方の意見交換をされている内容です。久し振りに面白い本を読んだというのが正直な感想です。森浩一氏の得意分野が多いせいか、森氏見方が強く現れている内容ですが、森氏がある内容を深堀するのに対し、門脇氏はそれを流れの中の一事象として捉えコメントを発せられています。考古学者が一つの遺跡にこだわり、文献史学者が歴史の繋がりにこだわるのか、それとも、森氏と門脇氏がそういう視点から分析する学者なのかは、わかりませんが、時に行き過ぎとも思われる森氏の意見を、さりげなく否定したり肯定したりしている門脇氏のやりとりは、読んでいて、個々の内容や着目点だけでなく、楽しむことができました。読んでいて突っ込みどころは多々ありましたが、それはテーマ毎に機会を見て歴史ニュースや古代史探求レポートでコメントさせていただきたいと思います。一読の価値ありと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★

大王陵発掘!巨大はにわと継体天皇の謎 NHK大阪 NHK出版

水野祐氏の「三王朝交替説」に従うなら、現代に続く皇室の真の祖先は「新王朝」を築いた継体天皇となります。応神天皇五世の孫と日本書紀に書かれた継体天皇は、あまりにも慎重に皇統を書いている日本書紀及び古事記において、非常に例外的な天皇であることは間違いありません。越前で育ち、尾張や近江をバッグにつけて大和朝廷を征した大王に興味は尽きません。これまでの天皇に較べて、この継体天皇の特異な点のひとつは、その墳墓が、大和でも河内でもなく、三島と呼ばれる現在の大阪府高槻市に築かれていることです。彼だけが従来の墓域から離れ、三島の地に葬られているのかは大きな謎の一つです。但し、三島と言っても、宮内庁の管理する太田茶臼山古墳ではありません。今や、全ての人が認める今城塚古墳です。発掘調査が許されている唯一の大王墓と言ってもよい今城塚古墳では、埴輪祭祀場が発掘され百三十体あまりの埴輪が見つかり復元されました。この本は、この埴輪祭祀場発掘の中で、なんとかして埴輪の持つ意味を読み取ろうとしたNHKの取材班の記録です。ただ、ああでもない、こうでもないと悩んだ割に、結局何もわからなかったというに等しい結論です。途中からは、水野正好氏の「埴輪論」が展開されているにすぎない内容になっています。埴輪は東日本古墳の特徴なのですが、詳細な比較がなされるでもなく、埴輪祭祀場に作られた4つの区画の中にある大きな家型埴輪の違いさへも分析されていません。報道とはここまでしかできないのかと、ちょっと残念に思いました。継体天皇陵や埴輪に興味のある方には、高槻市教育委員会が書いている吉川弘文館から出されている書物が一番有益な情報が得られると思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★

謎の根元聖典 先代旧事本紀大成経 須藤隆 徳間書店

「先代旧事本紀」という書物が有ります。古事記の序文の中に「勅語阿禮、令誦習帝皇日繼及先代舊辭」とあり、現代語訳するなら、「天皇は阿礼に命じて、帝皇の日継と先代の旧字を読み習わせた」と書かれています。このことから、古事記の元になった書物があるということがわかりますが、この「先代舊辭(旧辞)」をそのまま借用して、それらしく作った書物が「先代旧事本紀」であると考えられます。ただ、「先代旧事本紀」の序文には、推古天皇の命により聖徳太子と蘇我馬子が著したと書かれており尊重された時もあったのですが、徳川光圀や本居宣長らによって「偽書」であると断じられました。但し、他の書物には見られない物部氏の伝承などが書かれており、その記載内容を尊重する論文も多く出されています。定説としてよいのかどうかはわかりませんが、今は、平安時代に物部氏の一人である興原敏久(おきはらのみにく)が編纂したものとされています。これが、十巻本と言われる先代旧事本紀です。今回の「先代旧事本紀大成経」は、七十二巻本にもなるもので、通説では江戸時代に作られた偽書となっています。これ以外に三十一巻本という偽書もあります。筆者曰く、記載内容である「天隠山理論」が「宇宙の根源」を示しているということですが、内容は筆者の思想書(?)と言うか、独自の解説を入れた啓蒙書のような内容となっています。偽書であったとしても丁寧な分析を期待していただけに、裏切られた思いが強い書物です。残念ながら、内容を真面目に論じようとは思えないものでした。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★

応神=ヤマトタケルは朝鮮人だった 林順治 河出書房新社

歴史愛好家とは、非常に不思議なもので、得てして信者になりがちです。ある人の説に感激すると、その人の言うことは闇雲に信じて疑わなくなります。ベスト本に名前を載せている作家の方々にも、狂信的な信者がいらっしゃることは有名です。まあ、大学でも先生の論文を踏まえて論を進めるわけですから、似たり寄ったりではあるのですが。さて、林順治さんは、どうやら石渡信一郎さんの狂信的信者であるようです。石渡氏の説を、自分の見方を加えて力説されています。結果、久し振りに読むのに疲れる本と出合ったというのが感想です。普通なら、自分の持つ知識と照らし合わせながらふむふむと読み進めていくのですが、「えーなんで?辻褄があっている?」と常に読み返しを求められます。この書の原点は、応神天皇が百済21代の王である蓋鹵王(がいろおう)の子で、日本に人質にだされた徐昆支であるという説です。全てはそこから出発しています。(但し、林氏は蓋鹵王(コウロおう)の弟であったと、韓国の定説も否定されています。)。突っ込みどころは山程あるのですが、そもそも三国史記の中には、文周王の三年秋七月に「内臣佐平昆支卒」と書いてあります。佐平は一等官ですから、百済で重責を追った臣であり、476年に百済で亡くなっていることになっています。宋書百済伝に出てくる余昆は、昆支であったのでしょうが、458年に征虜将軍になったと書かれています。日本書紀によれば、461年に日本に質としてやってきます。少なくとも、蓋鹵王がなくなる以前に、百済に戻っていたのだと思います。ちなみに、応神天皇陵は5世紀初頭につくられた墓です。どんなに頑張っても、5世紀初頭に日本で巨大な墳墓を造ることはできないのです。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★

考古学者は名探偵 山本忠尚 論創社

今回も新しい本です。と言っても、昨年末に出版された本です。学者という職業は、考古学に限らず探偵であることは間違いないと思います。皆、詳細を観察し痕跡を見つけては推理し(仮説をたて)それを証明していく。優秀は学者であればあすほど、名探偵であると言ってもいいのではないかと思います。この本は、筆者が考古学者であったことから、当然ではありますが、考古学の世界を探偵に見立てて平易に解説しようと試みられた書物です。最初の頃は、残念ながらそれ程面白くない。楽屋落ちという感じの内容ですが、第五章と第六章はなかなか面白かった。何名かの名探偵の紹介であるのですが、それに、自分なりの推理を付け加えておられる。少なくとも、名前が挙がった名探偵諸氏の本は是非共読んでみたいと思わせられる内容でした。個人的には、第五章のトイレの考古学と、第六章の則天文字をより深く勉強してみることにしました。この2点に関しては、山本氏自身のもう一歩踏みこんだ考察を聞いてみたい気がしました。機会があれば、また書いていただきたいです。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★
論理の力強さ ★★★

触穢の成立 大本敬久 創風社出版

「新しい本の書評も入れてほしい」という声を受けて、今年発行された本からのご紹介です。この本は、「本は誰のために書くのか?」ということを改めて考えさせてくれる本でした。テーマ自体は、非常に大切な課題ですし、面白いと感じます。「ケガレ」という言葉は、多分日本独自の物なのではないかと思います。「ケガレ」は、「ケ枯れ」すなわち、「気枯れ」であるという引用迄は良かった。また、「穢」が「きたない」と訓読みされていたこともよかった。しかし、そこで終わってしまいました。「穢」が名詞となることが本として一冊に表すべきことだとは思いません。それ以上に、「汚い」と「穢い」はどのように違うのかが知りたかった。「ケガレ」という観念が、平安貴族により作られたものであることも、仏教の影響を多く受けていることも人々は気がついています。しかし、「ケガレ」がどうやって生まれたのか、また、なぜ「汚い」と字を分けたのかはわかりません。「穢」という字はのぎへんですが、稲や農業に関係がある字であるはずなのに、どうして「ケガレ」なのかというようなことが知りたかった。「そういうことが知りたいなら別の書に」と言われるなら、日本古代における「穢」観念の変遷という副題はどんなものでしょうか。本は自分のためでなく、読者を意識して書いてほしいと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★

前方後方墳の謎 植田文雄 学生社

前回「考古学教室」を紹介してから、「考古学を知るのに最も分かりやすい教科書は何?」という質問をいただきました。いろんな本があるのですが、私が必ず紹介するのが、この本です。何と言っても読みやすいし、分かりやすい。この植田さんという方の「前方後方墳」に対する思い入れがひしひしと伝わってくる、とても良い本だと思います。前方後方墳だけわかっても……. ご心配なく。古墳がどのように遷移したのか、古墳をどのようにして作るのか、そして、古墳をどのようにして見分け、どのようにして計測するのか。という全てが書かれています。そのための、土器の見分け方も書かれています。いたるところに散りばめられている、個人的な歴史観もなかなか面白い。狗奴国にまで突っ込んでいますが、「そうかもしれない」という説得力もある。まずは、読んでみてください。読んだ後、「神郷亀塚古墳」をとにかく見てみたくなりますが、実際行くと、ちょっとがっかりします。考古学とはそんなものだと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★

入門者のための考古学教室 山岸良二 同成社

考古学というのは、ちょっと片意地を張ったところのある学問です。まず、古代から伝わる史書というのを信じない。少し言い過ぎかもしれませんが、そんなところのある学問です。では、何を信じるかというと、実際に目にするもの、発掘されたものです。その情報を集めて、体系化していくというのが考古学です。ですから、考古学を俯瞰的に説明するというのは難しいのだと思います。
この本は、歴史に興味はあるけど、考古学の「こ」の字も知らないという読者を対象として書かれているようです。日本原人から奈良時代あたりまでを200頁程度にまとめるのですから、仕方がないのですが、どうしても表層的で特異な事象に偏ってしまいます。こんな見方もあるんだということを知るには良いのかもしれません。この本で何かを得ようとするのでなく、歴史への取り組みの一歩として活用してもらえればと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★
論理の力強さ ★

鉄剣の謎と古代日本 井上光貞他 新潮社

ここ最近、武蔵国を追い続けていたこともあり稲荷山鉄剣に関する書物ばかりを読んでいた。そして、その中でピカイチの本は、絶対にこの書だと推薦できる。シンポジウムでかわされたやり取りが収録されている本(最後に一部、数名の方の関連論文も掲載されている)ですが、非常に面白かった。井上光貞、大野晋、岸俊男、斉藤忠、直木孝次郎、西嶋定生。なんというラインナップ。古代史をやっている人から見ると震えがくるような大物ばかりの先生達である。まず、感じるのは、やっぱり違う。重鎮ならではの学識、畏れ入るばかりである。そして、専門が違うと見方も違う。同じ鉄剣を読み取るその姿勢の違いが面白い。本当に勉強になった。直木孝次郎大先生も、井上光貞先生の前では割と小さくなってしまうという印象も受けた。
学説では、私は、大野晋先生の取り組み方と推理が好きになった。この先生の切り込み方は本当にいい。無理があるのかもしれないが、一辺で好きになった。30年若ければ、間違いなく先生の講義を聞きに行ったと思う。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)

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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★★

関東に大王ありー稲荷山鉄剣の密室 古田武彦 新泉社


昔、創世紀という出版社から出されており、今また新泉社から出されたようです。表紙が変わっているので思わず買ってしまったら家にあったという情けない話です。定説ものともせず、という古田節全開の本ですが、読み返すとやっぱりいくつか気になる箇所があります。埼玉県稲荷山古墳から出土した辛亥銘鉄剣を読み解く話ですが、「上祖」を「祖を上る(まつる)」と読むのは流石という感想です。それぞれの名をなんと読むかは、当て字ですから正確なところは当時の人にでも聞かない限りわからない話です。ここではコメントは控えます。「斯鬼宮」を栃木県藤岡町にある大前神社としたのは残念としか言いようがありません。出土近辺で探すべきということで、大前神社が磯城宮と言ったのに飛びつかれたようですが、やはり、歴史には流れがありますから、ピンポイントで物を見るのはよくないと思います。武蔵国造の乱により、上毛野が破れ大和政権に下った笠原直一族の墓域こそが、さきたま古墳群(出土した稲荷山古墳がある)であることを考えれば、下毛野の一神社との関わりがあると考えるのは無理がありすぎます。やはり、大和政権との関わりがあったと見るべきで、その視点から謎を解いてほしかった。最後に、会話調で纏められているのは、きっとそれが読者に分かりやすいと思われてのことだとは思いますが、古田信奉者との会話での構成は、新興宗教の教祖様と信者のような印象を受けてせっかくの着目点迄かすんでしまっています。少し残念に思いました。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★

応神天皇の正体 関裕二 河出書房新社

古代史の定説をわかりやすく、整理し体系化されています。世の中ではまたは歴史の学会では、河内王朝の存在をどのように捉えているのかがよくわかります。応神天皇を中心として、幅広く様々な説を紹介いただいているのは良いですが、残念ながらもう一歩踏みこんでの独自論が弱いように思います。原因は、魏志倭人伝に出てくる「台与」の国が豊国だという論(妄想と言っては失礼かと思いますが)に取り憑かれておられるため、それ考え方から歴史を眺めておられるからだと思います。
宇佐神宮は、確かに秦人達(新羅から移り住んだ人々)が祀った神であることは私も賛成です。しかし、大宝律令の戸籍調査でも豊国に住んでいた秦人は281人しかいないのです。
邪馬台国九州説は九州説でも良いのですが、大和王朝が歴然と存在していた後、応神や仁徳が登場していることも忘れないでいただければと思います。
ちょっと残念です。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★

清張古代史記 松本清張 日本放送出版協会

独自の観察眼、歴史観というものは素晴らしい。「だから、xxxxという間違いをおかす。」と手厳しいが、同感できるのは狭い範囲で考えるのではなく、常に広い視野をもって歴史や遺跡を見るべきという姿勢です。確かに、多くの人が間違った解釈をたくさんしているのは事実であると思います。しかし、松本清張氏自身も、いくつかの誤った理解をされているように思います。邪馬台国は北部九州にはありえませんし、方円墳と名付けておられる前方後円墳の捉え方も、私とは相容れない物があります。いろんな意味で参考になる書籍ではあります。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★★

「天皇家」誕生の謎 関裕二 講談社

この人程、精力的に執筆活動を続けている作家の方も珍しいと思います。まさしく、歴史作家です。私も非常に多く彼の作品を読ませていただき、たくさんのお金を使ってしまいました。1万円は越えていると思います。そして、言えるのは、この人の本には良くも悪くも波があると思います。「なるほどなー」と感心させてくれることもあれば、「これ、焼直しだな」と思わされる物もあったり、量産されている本を片っ端から読んでいるからこういうことになるのかもしれません。あくまでも、個人的感想です。
この本で、関裕二氏の書評を書くのは不幸なことかもしれません。正直、「何が言いたかったのかなー。」とよくわかりませんでした。少なくとも、標題にあるような「誕生の謎」は書かれていません。関さんらしくない本だと感じました。すいません、こんな書評で。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)

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読みやすさ  ★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★

仁徳陵の被葬者は継体天皇だ 林順治 河出書房新社

古代史を趣味とする人は、なぜか信仰好きである。そして、特定の研究者もしくは作家を崇拝する傾向がある。これはなぜなんでしょうか。私の好きな作家(学者)の人達にも、多くの取り巻きがおりせっせせっせと講演会に通っている。まるで、祭祀のようである。祀り上げられた作家が発する神の声を聞こうとするのです。新興宗教のようで、ちょっと、気持ちが悪い。
この本の作者も信者の一人です。石渡信一郎という教祖様の言うことを、なんとかして伝導しようと頑張りますが、残念ながら読みにくい。もともと、無理がある理論のためでしょうが、応神天皇から論じるのか、継体天皇から論じるのかが定まっていないためだと思われます。
隅田八幡鏡の銘文の解読だけに焦点を充てた方がよかったかもしれません。この鏡の銘文にはロマンがあります。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★

「君が代」は九州王朝の讃歌 古田武彦 新泉社

国家である「君が代」は、小学生の頃より何度も歌っている歌であるが、作詞作曲者は誰?と聞かれて堪えられる方は何名いるでしょうか。皆様は答えられますか?
「えーと、確か、古今和歌集に載っていた……」と、言える方はかなりの歴史好きか、教養のある方であるとお見受けします。「古今和歌集」に載っていた「読人しらず」とされている歌であることは間違いなのですが、実は、もっと古くから九州の神社に代々伝わってきた歌であったと言うのが、話の大筋です。世に出ることになった経緯を解説のように折り込み、仲間の方と足跡を追っていく記載手順は、そのテーマとともに個人的に「やられたなー」と感じさせられる書物です。はっきり言って、うまいし、面白い。しかし、唯一その面白さを半減させてしまうのが、古田武彦氏の持論である「九州王朝」説です。なぜ、ここまで「九州王朝説」に固執するのか。まー、固執するからこそ、古田武彦でもあるのですが。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★

吉備大臣入唐絵巻 知られざる古代中世一千年史 倉西裕子 勉誠出版

皆さんは、「吉備大臣入唐絵巻」という物の存在をご存知でしょうか?私は、この本で初めて知りました。どうやら、アメリカのボストン美術館にあるらしい。12世紀から13世紀に作られた物のようです。この絵巻物は、遣唐使であった吉備真備が唐へ入ったところ、唐の役人が「こんな優秀な奴が来ては、我々の立場がない」として、高楼に幽閉してしまいます。すると以前に唐に入り同じように幽閉されてしまい、そのまま死んでしまった阿倍仲麻呂が鬼となって現れます。唐の役人達が出す、様々な難題を二人で考え解いていくという話です。この設定を知った人は、この話だけでも最高に面白そうと感じられると思いますが、この説話は大江匡房が書いた江談抄という本に書かれているお話です。実はこの話の中で、吉備真備は難解な「邪馬台詩」の解読に成功します。暗号のようなパズルのような文字の羅列から読み解かなければならない詩なのですが、作者の倉西裕子氏はこの「邪馬台詩」を「邪馬台国」に結びつけて考えます。そして、絵巻物自体が、弥生から続く日本の古代史の様子を封じ込めた物だと解釈するのです。第一章で古代を読み取り、第二章では、絵巻物に描かれた天平時代を読み取り、第三章では平安末期を読み取ります。全ての時代が凝縮されている絵巻という捉え方もできますが、倉西氏の歴史観を絵巻を通じて見た本という方が正しいかもしれません。題材が面白いだけに、「惜しいなー」というのが正直な感想です。ボストン美術館に行って、この絵巻は必ず見てきたいと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★

考古学と古代史のあいだ 白石太一郎 ちくま学芸文庫

時として学者というのは「やっかいなものだな」と感じる時があります。学問と真摯に向かい合うためには、予断や偏見は御法度なんだろうということはよくわかりますが、これほど多くの研究が進む中でどうして相互にそれを利用し、俯瞰的な目を持って古代史の研究が進められないのだろうと疑問をなげたくなることがあります。私は、学者ではありませんから、どんなものでも参考にします。日本書紀自体が偏見に満ちあふれているのですから、偏見も予断も大歓迎なのです。考古学に感心のある人の中で、白石先生の名前を知らない人はいないと思います。正しく、学会のトップを走る方ですが、考古学に留まらず文献の研究も尊重しようという姿勢は、正しく拍手を贈りたいと思います。この書は、古墳や副葬品を中心に、魏志倭人伝から倭の五王迄をやさしく解説し日本建国の姿を教えてくれています。優しい語り口が魅力でもあります。素直に、良い本だと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★★★

「日本書記」の暗号 林青梧 講談社

かなり面白い。真相の古代史という副題がついていますが、もちろん、真相かどうかはわかりません。というか、違うと思います。
朝鮮半島からやってきた渡来人達が、日本を作っていったという大きな流れは、その通りだと思います。そして、新羅系と百済系の対立があったことも事実であると思います。史実自体が、日本が幾度も朝鮮半島への進出を目指し、また、人質や有識者、技術者を受け入れて来たためです。しかし、日本がその時代、新羅に攻め込まれ押さえ込まれていたという事実はありませんし、百済に取り込まれていたという事実もありません。中大兄皇子が葛城皇子と金春秋のことで、大海人皇子が金多遂だというのは、最早史実から大幅にかけ離れており、説明できないことのほうが多過ぎます。
物語としては非常に面白い流れであると思いますし、時代の流れから推測を繰り返すアプローチも共感が持てます。歴史探求社おすすめの一冊です。個人的には、この書で引用されていますソウル大出版の文定昌氏の「日本上古史」は、なんとしても手に入れて、じっくり読んでみたいと思います。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)

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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★★
論理の力強さ ★★★

興亡古代史 小林惠子 文藝春秋

こういう書を読んだのは、生まれて初めての経験です。そういう意味では、勉強になりましたし意味がありました。読んだ私が、馬鹿なのか?それとも、最後迄読んだことを褒めてあげた方が良いのか。率直な感想です。
この小林さんという作者の方は、きっと東洋史を研究され膨大な書物を読んでこられたのだと思います。それも、きっと中国の二十四史、それも
夷蛮伝あたりを精読されたのではないでしょうか。いろんな国の王族の系譜を書いていると、時として、どうしてとぎれたのか?とか、どうして消えてしまったのか?という思いを持つことがあります。それを追っかけるのは本当に大変な作業になるのですが、他国の人となるととんでもなく大変なことだと想像ができます。その人が当時の日本にやってきていたとしたなら……それが、きっとこの書物の内容になるのかもしれません。膨大な資料と格闘しながら、独自の理論を組み立てていくのは本当に大変なことです。しかし、あまりにも根拠がなく、そして無理があるというのが正直な感想です。東アジア(この場合、朝鮮半島だけでなく、匈奴、烏丸、鮮卑、突厥をも含めて)が、列島内に存在するぐらいの広さであったなら、可能性もあったかもしれませんが、国を越えて民族や部族が移り住むには、あまりにも障害が多過ぎるのと、なぜ、日本に?ということになってしまいます。もちろん、私が100%否定できる箇所は、二割にも満たないかもしれませんが、それ以上に事実であると証明できるのは一割にも満たないと思われます。労作であることは間違いないです。校正、編集された方が、この内容に付いてこられたことに驚きを覚えます。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★

騎馬民族国家 江上波夫 中公文庫


久し振りに思うところ合って、江上波夫氏の騎馬民族国家を読み直してみました。騎馬民族、特に鮮卑を中心とした分析力には本当にすごいとしか言いようがないですが、合わせて、彼が唱えている日本の古墳時代の途中に騎馬民族が侵入しそれまでの古代日本を征服するとともに、現地の豪族達と大和朝廷を打ち立てたという説には説得力があります。日本の古墳時代の中期という考えではなく、卑弥呼の時代の後古墳時代の移行に際して行われたとするなら、私は賛成すべき点が多いことは確かです。壱岐の島では、突然、原の辻遺跡が消えていき別の場所に古墳が200基以上も作られています。これなどは、騎馬民族の侵入以外考えられません。ただ、この騎馬民族とは、伽耶地方の部族であると思いますが。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★★

邪馬台国見聞録 安本美典 徳間文庫

邪馬台国九州論の中で、東遷説を追い求める安本氏。理論構成も素晴らしく、数理的アプローチも非常に説得力があります。これまでの数々の学者の研究を4つのパラダイムに分け、解説した後、持論を展開されています。「甘木朝倉地域にあればいいですね」と声をかけたくなるような力作です。ただ、本人の中にあるジレンマのようなものを感じるのは私だけでしょうか。絶対、おすすめの一冊です。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★★★

ヤマト政権誕生と大丹波王国 伴とし子 新人物往来社


天橋立の籠神社に行った時、神社の売店で売られているのをみて、思わず買ってしまいました。それ程、期待していなかったのですが、内容は割とおもしろかった。海部氏系図というものが国宝として存在することさへ知らなかったですから、逆に、いろいろと他の知識とつながり、私の中では非常に良いトリガーとなってくれました。私としては、もう少し、海部氏系図に記載された注釈を追っていってほしかったと思います。大丹波王国があったかどうかは別にして、朝鮮の三国史記の新羅本紀にこの内容にもしかすると関係するかもしれない面白い記述があります。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★★
論理の力強さ ★★

中国の研究者のみた邪馬台国 汪 向栄  同成社


邪馬台国を読み解くには、どうしても魏志倭人伝に代表される中国の歴史書を追っかけていくことが必須であり、絶対となります。我々は、それらの文を書下し文にして読みますが、時々、「以」の用法とはじめとして、この接続詞としての理解でいいのだろうかと不安になることがあります。中国の人からみれば、どこまでの意味が隠されているのか解明してくれるのだろうかと期待して読みましたが、ほとんどの内容が日本のこれまでの研究者のまとめとなっていました。最も経済の発達したところに都があったというのは、考え方として納得しにくいものがあります。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★
論理の力強さ ★★★

逆説の日本史 古代黎明編 井沢元彦 小学館


井沢元彦先生の歴史へのアプローチ方法は、怨霊、言霊、怨念、魂の鎮魂という精神世界の解読からはじまります。もちろん、人間というものが科学的に解明されていなかった時代、宗教がそうであったように(今でもそうなのかもしれませんが)、非常に強い力を持っていたことはわかります。ですから、そこを掘っていくと、真の理由にたどり着ける可能性があるのかもしれません。この本は、歴史書というよりは、随筆に近い物ですが、巧みな話法で「そうなのかもしれない」と思わされます。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
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読みやすさ  ★★★★★
着想の奇抜さ ★★★
論理の力強さ ★★★