関東に大王ありー稲荷山鉄剣の密室 古田武彦 新泉社


昔、創世紀という出版社から出されており、今また新泉社から出されたようです。表紙が変わっているので思わず買ってしまったら家にあったという情けない話です。定説ものともせず、という古田節全開の本ですが、読み返すとやっぱりいくつか気になる箇所があります。埼玉県稲荷山古墳から出土した辛亥銘鉄剣を読み解く話ですが、「上祖」を「祖を上る(まつる)」と読むのは流石という感想です。それぞれの名をなんと読むかは、当て字ですから正確なところは当時の人にでも聞かない限りわからない話です。ここではコメントは控えます。「斯鬼宮」を栃木県藤岡町にある大前神社としたのは残念としか言いようがありません。出土近辺で探すべきということで、大前神社が磯城宮と言ったのに飛びつかれたようですが、やはり、歴史には流れがありますから、ピンポイントで物を見るのはよくないと思います。武蔵国造の乱により、上毛野が破れ大和政権に下った笠原直一族の墓域こそが、さきたま古墳群(出土した稲荷山古墳がある)であることを考えれば、下毛野の一神社との関わりがあると考えるのは無理がありすぎます。やはり、大和政権との関わりがあったと見るべきで、その視点から謎を解いてほしかった。最後に、会話調で纏められているのは、きっとそれが読者に分かりやすいと思われてのことだとは思いますが、古田信奉者との会話での構成は、新興宗教の教祖様と信者のような印象を受けてせっかくの着目点迄かすんでしまっています。少し残念に思いました。(本の写真をクリックいただければ、アマゾンのショップに繋がります。)
Pasted Graphic 4

読みやすさ  ★★★★
着想の奇抜さ ★★★★
論理の力強さ ★★★